☥ 硝子の楽園 伊東聰 015

案の定、のことであるが、夕食時のくつろぎ時間になるとさっそく秦野の「トークショー」がはじまった。そのころには太一も昭子もサファイアンも戻ってきて「歓迎しがたい客」の到来に顔をひきつらせつつそれぞれの持ち場へさっていった。

あとにはなにも語らない浦神氏と「俺」と秦野。酒がはいっているせいか、暴露トーク炸裂状態の秦野。おかげで浦上氏と秦野の関係、六本木の「セレブ達」のこと、調べるべきそんな事情が彼のおかげで容易につかむことができた。

「今でこそ一気におとなしくなってしまったけどよ、あのころは浦神も相当な策士で、『金になる』と思ったらなんでもしかけて…」「秦野そろそろ…」浦神氏が話の流れを変えようとする。「まあ俺とお前の仲だから?」「秦野!」

やはり顔の火傷のせいなのか、たぶんイケメンとされていたころは秦野は浦神氏の手下みたいなもので、セレブ達の暗い欲望の後始末を考えたのも浦神氏のほうだろう。だが浦上氏は「変わってしまい」、立場逆転というところか。

もちろんそんな話を「一見」の「俺」にばらされることに浦上氏が不快感を感じないはずがなく、夜もふけていることもあり相当いらだちが増えているようだった。そして秦野はむしろそんな浦上氏の反応を楽しんでいるようにも見える。

「不思議な関係だな」。裏世界を生きたものの独特の勘で「俺」はそう感じた。秦野はおしゃべりな男ではあるが、すべてを明かしているわけではないだろう。この二人にはほかの黒い秘密がある。そう感じただけでも今夜は十分な収穫であった。

夜も更けて、眠いので、という理由をつけて「俺」はトークショーからぬけだした。秦野は明日にはすぐ東京に戻るらしい。今日の患者はしばらくこの島で療養生活を送ったのち、迎えのものをやらせるという。入退院が人目につかないわけだ。

「しかし人が『本当に』消えてもわからないよな」「俺」はそのようにつぶやくとベッドにもぐりこんだ。だが眠るわけではない。二人きりになった浦上氏と秦野。だいたいここからが本番だ。

「久しぶりだな、『清志郎』」スミノフをタンブラーに注ぎながら秦野が名前で呼ぶ。「疲れているといっただろう。俺はいらだっている」浦神氏が答える。「つれないなあ、俺とお前の仲だろう?」秦野がにやりと笑い、浦神氏が目をそらす。

「俺を見ろ『清志郎』」秦野がせまる。きっ!とにらみつける浦上氏。「お、いいねその瞳。その目が焼けなかったことが『奇跡』だ」。秦野が浦上氏のあごをぐいを引き寄せる。「俺にさからったらどうなるかお前はよくわかっているよな。」