レベル1 KYの原因・「疎外感」の落とし穴 その8


前回からつづく「疎外感」の話です。
[コミュニケーション講座1]レベル1 KYの原因・「疎外感」の落と - さとしの哲学書簡ver3 エジプト・ヘルワン便り


■「場面の要約」は必要不可欠!
ある日、友人と飲みにでていました。
友人の一人の携帯がなりました。
出た友人の顔色が「深刻モード」にかわります。


どうやら親しい人がなくなったようです。
通夜やら葬式やらの単語がでてきます。


しかし「どのレベルの親しい人なの?」
友人の親族なのか友人なのか、断片的な会話ではわかりません。


私はほかの友人にききます。
「何があったの?」
友人が答えます。
「親しい友人がなくなったんだって。通夜・葬式の打合せしているんだよ。」


また数年前の私の入院中にこういうことがありました。
ある看護師の起こしたトラブルで私の親友が激怒しました。
「いい!あんたかかわらないで。こっちは高い金はらって入院生活おくっているのに、こわされたらかなわん」

場面の空気が凍りつきました。


その風景にはひとりのろう者の友人がいました。
ろう者の友人が私にききました。
「ねえ、何があったの?」
私は答えました。
(伊東)「看護師が○○を起こして友人が○○という理由で怒った」
(友人)「そう」


「親しい友人がなくなったんだって。通夜・葬式の打合せしているんだよ。」
「看護師が○○を起こして友人が○○という理由で怒った」


このふたつは場面の空気に溶け込むために大変貴重なかかすことのできない情報なのです。


■「何があったの?」
「何があったの?」


ほとんど大多数の健常者はこう答えます。
「あなたに関係ない」


なにげない言葉のようですが、非常にシビアな問題を引き起こす問題回答です。


「何があったの?」「あなたに関係ない」。
健常者としてはこの言葉を発した人に
「関係のある内容かどうか」を判定してこのようにかえしています。
しかし、「関係のある内容かどうか」を判断するのは
本来「何があったの?」と聞いた人間の範疇です。

「あなたに関係ない」と発言したほうが判定する内容ではありません。
また、「あなたに関係ない」という言葉からは
「あなたはこの場面ではお客様だよ」という意味も含んでおります。
「あなたに関係ない」と発言することによって一人のKYさんを誕生させるのです。


みんなで行動しなければならないときにとんでもないことがおきます。


■「あなたに関係ない」がトラブルに!
小中学生のときに私には大きな悩みがありました。


集団行動がうまくとれないのです。
1:1の2名の関係であれば問題ないのですが、3名以上になると「集団の暗黙の了解」を無視した行動をとってしまいます。強い疎外感を感じて何かにとりつかれたように別行動をとってしまうのです。


この謎は大人になってやっとわかりました。
コミュニケーションの問題です。
「集団の暗黙の了解」というのは大量にとびかうこまめなすりあわせによって承認されるものです。
ですが、私にはその会話がわかりません。
当然集団になじもうとおもうので、聞きます。
「何があったの?」
そしたらすべてといっていいほどほとんどの回答が「あなたに関係ない」だったのです。
そして私には情報はなにもなく、アイコンタクトさえありません。
私は思います。「ああ、私はこの集団で必要とされていないのだな。」そしてこう思います。「じゃあ、この集団の邪魔にならないように姿を消しておいたほうがいいな」と。


そして誰も気付かないうちに「行方不明」になってトラブルになる。
でも正直思います。


「『関係ない』といわれて情報が提供されないのでは私がいるべき場面かどうかをどうやって判断すればいい?」。


このことに気がついてコミュニケーションに障害をもつとされる友人たちの不可思議な問題行動をみていて「やはり」と感じたことがあります。


まるで「仙人」のようなのです。


ある集団で団結一致して思っている課題があり、課題解決に向かって必死にがんばっています。
ところが彼らはそこにふらっときて、「自分の用事のみ」を伝えます。
そしてそれが果たされたらふらっと去っていきます。
仙人が「酒」をもとめて人里におりてくるがごとしです。
また心身一致で団結して熱くなっている重要な場面でふらっと抜け出し、ベンチで昼寝していたりします。
当然場面の空気が読めずに「余計な問題」を持ち込みます。


「今どういう場面か確認してから自分の要件をだせ」


そのようにいってきたこともありますが、改善されることはなく、やがてその集団に姿をみせなくなりました。


■FBI特別捜査官なみの能力要求…。
さて…何が起きていたのか。


これも彼らの中につもった長年の「疎外感」が原因と思うのです。
たぶん彼らも「あなたに関係ない」をいわれつづけてきたと思うのです。
そして彼らのなかのルールが次のように形成されてしまいました。


「基本的に自分は集団の中で『異端者』だ。だから集団の空気のじゃまにならないように距離を置いておいて、自分の必要なときだけ必要なものを手短に伝えて用件をすまそう」


また「誰も自分をみてくれないから、『見捨てられた』と感じる。それがつらいから痛みを感じないように距離を置いておいて、自分の必要なときだけ必要なものを手短に伝えて用件をすまそう」


どちらにしても「あなたに関係ない」が築き上げた「疎外感」です。
彼らは「自分勝手」「自己中心的」と解釈されます。
けれども「状況」に対して判断を下すのは「その人」です。
「関係ない」の一言で状況に対する情報をうまく収集できなくなったら、「自分勝手」「自己中心的」、つまり「空気がよめない=KYさん」になってしまうのは人間科学的に当然の帰結なのです。


「何があったの?」で必要としているのは、「空気がよめない=KYさん」にならないように状況を判断する「情報」なのです。決してその場面にその人が関係あるか関係ないか、ではないのです。場面に自分が関係あるかないかを判断するのはあくまで「何があったの?」と聞いた本人です。それで「関係ない」というのであれば、その人が「空気がよめない=KYさん」の行動をとったとしても、それを非難する資格はその集団にはありません。だって「関係ない」のでしょう?だから必要な情報を与えなかったのでしょう?


けれどもほとんどの場合、「関係ない」と宣言したことを棚にあげて「空気がよめない=KYさん」を非難します。


これは「超能力で相手の心を読め!」というのに等しいです。この状況で「空気がよめない=KYさん」を解決しようと思ったら、FBI特別捜査官としての訓練を受けなければいけなくなります。実際私は「超能力」ほしかったです(苦笑)。


FBI特別捜査官の訓練、聴覚障害者、自閉症者の教育訓練にとりいれましょうよ(笑)。


冗談はここまでにして、それぐらいのことを期待されてしまうことが往々にしてあります。


■「場面の要約」5WIHを伝えるだけでいい

じゃあどうすればいいのか?ということですが、必要なのは「場面の要約」なのです。
「何があったの?」は「今どういう場面になっているの?」なのです。
状況を映画のワンシーンとしてとらえて、「こういう場面になっているよ」これでいいのです。


5W1H - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/5W1H


たとえば最初の例にある「友人の友人が昨日亡くなった」。
これを聞くだけで私は友人にかける言葉を考えることができ、もし親族だった場合友人が飲みを途中で抜けることも想定できます。


またろうの友人の場合は結果として「彼にできることはなにもない」ですが、少なくともその場面に存在することができます。


健常者の場合は5WIHを会話の流れで整理することができます。
これが「空気を読む」の正体です。
けれどもコミュニケーション障害者の場合はこれが難しいのです。
場面展開の空気を感じることができてもその意味するところを理解するにはやはり5WIHが必要なのです。