イスラーム圏のGID海外事情 その3

◆ところで「中東=性転換」の イメージはどこから?
ということで本題に入る。
実は講座のスタートでGID支援センターを運営している山口先生が概論として話してくれたのでおおくを語る必要なし。

山口先生のブログ
GIDサポーター - 楽天ブログ
http://plaza.rakuten.co.jp/GIDsupport


◆モロッコ 「性転換のメッカ」
ロッコだ。モロッコの語源はマラケッシュという都市の名前だ。
フランス人医師のジョルジュ・ブロー氏がカルーセル麻紀さんのオペをして有名になりましたが、現地ではもちろんそんなこと知りません。


それを「性転換のメッカ」にかこつけて「マラケシ(魔羅消)」といっていた。


しかしMTF専科だ。FTMは立つものができないため」(ブロー医師)


初のFTMオペはセルビアベオグラードか?アメリカ?


実はそれは決め手がわからない。1936年に行われているらしいのだが…。
MTFの場合はローマ帝国のネロ帝の時代、クレオパトラ滅亡後のアレキサンドリアだ。
ネロの3番目の奥さんがMTFでオペをしている(スポルス・サビナ)


ベトナム戦争(1960-1975)の負傷兵のペニス再建技術から発展したならアメリカですが、すべてのFTMSRSの発祥がベオグラード系という話もあります。調査中です。


◆イラン 「イスラーム国家」で最初に性別変更を認めた国

ゴルゴ13 第三話「バラと狼の倒錯」

FTMのジゴロ?登場(1969年1月)
この「黄色いバラ」とよばれたゴルゴのターゲット、ゴルゴは「女」といい、依頼人は「男」だといったどちらか性別不明な存在。医学的に「完全な雌雄同体」はありえないのだが、2000年近くになるまで「完全な雌雄同体」神話はあった。実際には「男との女とも分離しがたい性」になる。「真性半陰陽」ということか。通常「半陰陽」は「身体的に男性にするのが医学的に困難」なので9割が女性として育てられ、人によっては大人になって男性になる。これは性別は最初中性で性分化の際に男女わかれるからだ。必要ないほうが「退化」する。そのため男女両方に男女両方のなごりがある。それがあいまいな状態のまま生まれるケースが1万人にひとり存在する。GIDよりも多い。ちなみにこれがゴルゴ13にでてくる最初の性的少数者でその後、性別にとらわれず判断できるようになったゴルゴは女装のターゲットも依頼を果たした。


そして、ゴルゴ13高倉健主演)1973年12月公開 イランロケ。
※実は性転換オペ前のカルーセル麻紀さん最後の出演?(1973年10月モロッコ渡航


実はこのころのイランはアメリカに雰囲気がにていて、経済的に許されれば必要な治療と性別変更はできた。
もともとペルシャ文化の伝統は日本のもつ多様性ににている。
そもそも商業がベースだと「多様性の尊重」につながるのかもしれない。


革命前のイランの雰囲気です。
厳格なイランでもミニスカートの女性がいた時期:沖縄宝島 恋も幸せも楽しい情報もイッパイ!満載!
http://sezon.ti-da.net/e2324489.html


ところが。


1979年 イラン革命おこる。
イスラーム法の国家になって許されない可能性がでてきた。


そこで動いたのがマルヤムカートゥーン・モルカラさん。
彼女がいなかったら、中東のGIDの事情は変わっていたかもしれない。


彼女は1978年、亡命中のアヤトラ、ホメイニ師、1986年に政府の性別変更の許可を得た。
1997年にイラン政府の援助でバンコクでSRS。

イスラーム国家になったあとは
イマーム・ホメイニ慈善事業財団として知られている
イスラム慈善グループがあり、
性転換手術の料金のローン等およそ1200ドル提供している。


テヘランでのFTMの第一回のオペ代4000ドル(約40万円)。
平均月収3万円。
日本人の感覚でいうと400万ぐらい。
1200ドルはFTMのイラン国内オペ4回分相当。


日本人的皮膚感覚でいうと「SRSに1200万かかり、
その1200万のローンが組める」というところ。


◆トルコ  「初の立法的解決(シーア派)」

ビュレント・エルソイ
1981年、英国でSRSをうけ、性別変更を求めるが却下。
法律が改正されないかぎり歌を歌わないと宣言、ドイツへ。
1988年民法29条が修正、2001年改正。

はじめてここにきた方へ解説
司法的解決「判決によって解決すること(裁判所)」→イラン、エジプト
立法的解決「法律をつくって解決すること(国会)」→トルコ


イスラーム圏の場合、ほとんど司法的解決です。
サウジアラビアが立法するか????
日本は立法的解決です。


◆エジプト 「スンナ派の総本山アズハルが性別変更を認める」
サリー・ムハンマド・アブドラ


1982年診療をうけ、1988年にSRSを受けた。
ところがアズハル医学部の卒業試験の受験を
「女でも男でもないこと」を理由に拒否され、
退学になった。


その後アズハルで「性別変更は合法」とのファトワーを発表、1997年、司法で性別変更を認めた。


※19世紀には女装の芸能者「khawalat」がいた。


イスラエルユダヤ教) 「唯一のトランスジェンダー?」
ダナ・インターナショナル
ダナ・インターナショナル - Wikipedia


英国で性別適合手術をうける。
唯一のトランスジェンダー
2009年現在、性別変更不可。


超正統派からのつきあげはあったらしいが、「イスラエルは『多様性を認めない』国という国際的な偏見を破るため」に目をつぶったらしい。


サウジアラビア 「日本の次にFTMが多い国?」
もしかしたらマスコミにでた積算だと日本より多いかも…。


1956年、MTFサーミル・ビン・アブデル・アジズ王子がアメリカ・マイアミでSRS準備中に自殺
2001年、「女性」(FTM)が性別適合手術(SRS)で男性に
2004年、5人姉妹のFTMたちが順番にSRS
2006年、FTM5人が海外でSRS、安易なSRSを禁止する法を制定する必要ありとの宗教界から要請
2009年、「15年間、女の子として育てられた少年(FTM)」

サウジアラビアと日本になぜFTMが多いのか

実は日本とサウジアラビアのFTMの発生頻度は国際標準からいうと「異常事態」
国際標準がMTF:FTMが3:1に対して、MTF:FTMが1:3らしい。


日本に多い理由は「婚姻関係」が結べるという制度的保障への欲求。
女性同性愛者たちがFTMになだれ込んでいる可能性が高い。
「形を整える」日本人の思想だ。
日本的規範を守る非常に日本人らしい行動といえる。


サウジアラビアに多いのも同様で、
こちらがもとめるものはジェンダーの自由。


親族の男性の許可がないと外出できないし、車の運転はできない。
サウジアラビアの女性の間で
男の家族の衣装を借りてつけひげして男装して
車を運転したり、外で遊ぶということがはやっているらしい。
異性装の延長で「性別変更」してしまうという
世界ではMTFが起こすプロセスがFTMにおきているのかも。
(だから「安易な…」につながる)


けれども海外組はともかくとして国内のほうはきちんと国際的なガイドラインに準拠している。
(つまり精神療法プロセスによる除外診断を受けている)


パキスタン 「基本的には性別変更できる?」
シュメール・ラージ &シャージナ・タリク


IGLHRCによるアクションの呼びかけにご協力を! - ゲイジャパンニュース
http://gayjapannews.com/info/20070603IGLHRC.htm


逮捕されたトランスセクシュアル男性とその妻 パキスタン最高裁が保釈決定 - ゲイジャパンニュース
http://gayjapannews.com/news2007/news171.htm

パキスタン警察、トランスセクシュアル男性とその妻を逮捕 - ゲイジャパンニュース
http://www.gayjapannews.com/news2007/news102.htm


2007年、性別の虚偽申請による結婚で逮捕。
ラージさんの「ペニス形成が行われていない」ため、イスラーム法上女性ということになり、 1万ルピーの罰金と、3年の禁固刑の判決。「不自然な情欲(同性愛)」の罪については無罪。釈放。


「SRSを海外でもう1回受けたい」(ラージさん)


発展途上国の悲しい問題で、親や親族の借金返済のために「結婚」の名目で思春期以上の娘を「売り飛ばす」ということがよくある。有名なインドの政治家であるプーランもその被害者だ。「結婚」という名目で売春させたりとか。タリクさんもおそらくどこかの金持ちと「結婚」させられそうになった。


プーラン・デーヴィー - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%BC%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%BC


一方イスラーム圏の習慣で「結婚」がいやだったら、味方になってくれる親族の家に逃げる(叔父の家であることが多い)という手段もある。のちに妻になったタリクさんはそれでラージさんに助けを求めた。ラージさんとタリクさんはいとこ同士なので事情も知っているし、一方親族も事情を知っている。よくあるきたないお家騒動が発端だったのだけど、そこにラージさんがFTMであるということで国家・国際レベルの話に発展してしまったわけだ。これは「エジプト版ブルーボーイ事件」であるサリさんのケースに似ている。


「個人のアイデンティティと社会の関係が非常にはっきりしている。」というのはそういうことなのだ。
「個人的な問題が即社会的な問題として大騒ぎ」というイスラーム圏の社会問題の特徴だ。


これはペニス形成が行われていれば変えられた可能性があったかもしれない。
ラージさんは2回手術をパキスタン国内でうけているが、パキスタンでは形成が技術的に難しいのだろう。


一方でこんな方も。

人気「オネエ」芸人 タブー破る ブット首相にあこがれた パキスタンの女装家(2009年)
アリ・サリーム
「多様性」に「寛容」な パキスタンイスラームの象徴とされている。


http://www.yomiuri.co.jp/world/earth/ear081226.htm
http://www.yomiuri.co.jp/world/earth/ear081226.htm



◆そのほかのイスラーム国家では?

◆湾岸諸国
バーレーン 2006年に許可(FTM
クウェート 2004年に許可(MTF
カタールアブダビも許可あり。


しかし…。


◆東南アジア
マレーシア 2009年現在性別変更不可
インドネシア 2009年現在性別変更不可


ただし、インドネシアのマリャニさん
waria専用イスラム学校をつくったトランスジェンダー
※男性でも女性でもない「waria」が存在する。

トランスジェンダーだって祈りたい、専用イスラム学校をつくった女性 写真10枚 国際ニュース:AFPBB News
http://www.afpbb.com/article/life-culture/religion/2540312/3513838


◆まとめ
ほとんどのイスラーム国家でも性別変更はできる。
性別越境者も「NO PROBLEM」かも?
しかし、個人的な問題が国家的な問題に!


国内でSRSできるが、不十分(政府系(公立)病院のみ、民間NG)
→技術的・経済的問題で海外でオペするケースも多い。


そして海外でよくいくと伝えられるタイ・バンコクのPAI(プリーチャ・エステティック・ インスティトュート) の紹介をする。(2009年4月8日訪問、日記はまだ)


バンコク・エカマイのメディプレックス内にあり、2008年末にBNH病院 から移転
全身麻酔が必要なオペはPAI分院ピヤウェート(Piyavate)病院で。


そしてタイが日本とタイの病院システムの違いを紹介する。


タイ、ブームに沸く医療ツアー:日経ビジネスオンライン
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20090218/186438/#

ピヤウェート病院に来る外国人患者の大半はオマーン人。そこで同病院はオマーンにもメディカルセンターを建設する計画だ。

タイは2008年、海外からの医療ツアーによって約1822億円の収入を得ている。そのうち約521億円が病院などの診療報酬で、残る1301億円は患者の家族による買い物や旅行などの観光収入である。観光収入全体の約10%に相当する規模になっている。


2時間の時間で山口先生含む4名の発表だった。


★★全体としての感想★★
山口先生が「世界の中の日本の位置づけ」ということで国際的視野で概論を説明してくださったのでやりやすかった。


国際視野で「南米」が抜けているのだけど…。
美容外科は多いところなのでなにかあるだろう。


南米を語る上でかかせないのは国家指導者カストロの娘、マリエラ・カストロGIDサポートだろう。
http://courrier.hitomedia.jp/contents/2008/07/post_329.html
http://courrier.hitomedia.jp/contents/2008/07/post_329.html


これがぬけちゃいかん…。
医療費は無料。


患者が多いと「GID医療の融資」はリスクが高くてできないし、
患者が少ないと保険適用できないし、
世界的に医療機関&技術が足りなくてみんなタイをめざす、
しかしケアトラブルの関係上「手術は国内原則」という話


結構「奥が深い」と思いました。
★★★★

<終わり>